概要

舞台
雨漏りクローズド
プレイ想定時間
テキストセッションで5~7時間
ボイスセッションで1~3時間
PL人数
1~3人
新規継続
不問
スタイル
クラシック
難易度
ロスト率

(ソロの場合やや上がる)
後遺症率
ほぼない
推奨技能
〈聞き耳〉〈図書館〉〈目星〉
暴れたいなら〈戦闘技能〉
そうでないなら自衛程度の〈戦闘技能〉
準推奨
〈精神分析〉〈心理学〉
〈医学〉or〈応急手当〉

高POWは推奨であり非推奨である
低SANは推奨であり非推奨である

準推奨は振る機会がある程度



以下、KP向け情報(PL閲覧不可)



















KP向け情報

真相・背景

本シナリオの黒幕はナガアエ《MM.p85》と精神寄生体《MM.p63》に蝕まれて廃人となった名もなきNPCである。

ナガアエの肉を好み捕食する性質と、精神寄生体が人間の知性や精神を主食としている性質の利害の一致で、今回両神話生物は手を組むこととなった。
精神寄生体は精神を食い尽くして廃人にしたNPCを利用して人々を拉致し山小屋へ隔離、
滴水刑という拷問を実行して精神を摩耗させ、満足したところでナガアエに引き渡し捕食させるという流れで多くの犠牲者を出していた。

探索者たちもその手法で拉致され、1~2日ほど監禁が経過している段階で本シナリオはスタートする。
シナリオ開始段階で探索者達は夢の中にいる。
夢は精神状態に直結しやすいものであるため、正気度によって開示情報が異なる。
より狂気に近い者の方が真相に近づけるが、その分深層心理が危ういという示唆でもある。
なお、精神寄生体が犠牲者に悪夢を見せるという性質から、夢の内容は精神寄生体により若干細工されている。
解決策を導き出すという希望をちらつかせた上で絶望に叩き込んだ方が精神的なダメージが強いからという、精神寄生体の悪戯心である。

シナリオ中発生するPOWロールは悪夢の影響を受けずに精神を保てるか(現実を垣間見、現状を把握する精神力があるか)を判定するものであり、
失敗数により寝覚めが悪く技能値にマイナス補正が掛かるのは、精神が疲弊しており夢に引っ張られていることが理由。
特に対抗を判定するロールではないため、単純に探索者のメンタルが頑張れるかどうかのロールである。

なお、ナガアエと精神寄生体は手を組んだとはいえ、元は目的も違う神話生物同士、息の合ったチームプレーがずっと上手くいくわけもなく、
終盤では空腹に耐えかねたナガアエが天井から飛び込んでくるため、探索者達は幸か不幸か、脱出のタイミングを得ることとなる。
ここで素直に逃げるも人間らしくてよし、立ち向かって戦うも爽快でよし。
ナガアエを撃退せずに離脱した場合、今後も犠牲者が出ることにはなるのだが、それは探索者達の責任の範疇外だ。
己の正しいと思う選択で生還を掴み取って欲しい。


※滴水刑は中国語のため、便宜的に「てきすいけい」と読んでもらって構わない。

登場する神話生物

ナガアエ《MM.p85》

本シナリオで登場するナガアエは平均値よりも大きな個体であるため、
屋内での戦闘時、回避を行わない処理とし、加えてかぎ爪の成功値を落としている。
KP裁量によっては難易度調整としてかぎ爪の成功値を上げても構わないが、最大60%とすること。

噛みつきの攻撃を食らった犠牲者は〈POT10との対抗ロール〉が発生する。
対抗に成功した場合、弱い幻覚作用を受け〈3d10〉Rの間技能値に【-10%】
失敗した場合、〈1d10〉R以内に遅効性の毒で死に至る。
失敗の処理の難易度が高いと感じた場合は〈3d10〉Rの間技能値に【-20%】としても構わない。
毒の効果に関しては〈医学〉や〈応急手当〉によって適切な処理が出来たとして扱うが、代替案の提案があれば積極的に採用して欲しい。
KP裁量に委ねる。

ナガアエとの戦闘に勝利した場合、KPは〈2d4〉をシークレットで振り、この出目をその場にとどまって行動できる回数上限とする。
上限を超えて留まる、行動をした場合はその場にいる探索者全員にナガアエの死体から発生した腐臭による〈CON×3〉ロールが発生する。
失敗した場合、吐き気に耐え切れなくなるが、このあたりはフレーバーなので好きに処理して欲しい。
病院に行けば治療してくれる。
STR26 / CON20 / POW13 / DEX6 / SIZ26 / INT13 / HP23 / DB+2d6 / 装甲2PT / POT10

〈かぎ爪〉 30% 1d6+DB
〈噛みつき〉40% 1d8+毒(POT10)

1R攻撃回数2回(かぎ爪・噛みつき1回ずつ)
回避なし



精神寄生体《MM.p63》

起床後に話しかけてきたNPCは精神寄生体に蝕まれ、正気を手放してしまった人間である。
人間としての自我や常識は失っている状態であり、話し方に違和感がある(=廃人である)点だけ共通して貰えれば
特に名前やバックグラウンドは設定していないため、性別や外見もKP裁量で変更して構わない。

ギミック

① 正気度 / 発狂状態による情報の差異

  • 正気度が一定値を下回った(シナリオ基準で30をボーダーラインとしているが、KPが任意で変更して構わない)
  • 発狂状態に陥っている
  • 不定の狂気を抱えた状態でセッションに参加している
  • シナリオ開始後不定域に入った
上記いずれかの条件を満たした場合に、閲覧できる情報が変わる箇所がある。

② POWロール

水滴音を聞き、額に水が垂れた感覚を得た際に〈1d100〉を振って貰う。
判定値は探索者のPOW×5。
強制イベントとして2回、探索の成功情報として得た場合最大で3回発生する。

成功により現実を垣間見、正気度ロールが発生する。
失敗では2回まで何も起こらないが、3回目で正気度が減少する。

成否いずれでも次回成功値に+5ずつ加算される(上限95)。
これは何度も繰り返すことで耐性が上がっているための処理。

成否の回数によって起床の際のPOWロールの倍数が変動する。


1回目
成功:
ふ、と目の前の景色が一瞬ゆらぐ。
最初はまだ寝ぼけているのかとも思ったが、視界に広がる景色の角度が違う。
先程まで正面を向いていたはずなのに、今は見知らぬ天井をじっと見上げているのだ。
首から下は金縛りに合ったかのように動かず、かといって頭部を思うように動かせるわけでもない。
奇妙な感覚に不安感を募らせていると、急に身体が楽になる。
気付けば視界も元通りになっていた。

〈正気度ロール 0/1〉


失敗:
得も言われぬ不安感、じりじりと正気の糸を焼かれるような感覚を抱く。
しかしその正体はわからない。

2回目
成功:
瞬きをして、再び瞼を持ちあげた先には、閉じる直前まで見ていた景色とは違うものが広がっていた。
またあの天井を見上げている。
首から下も相変わらず動かない。
よくよく目を凝らして見れば天井に僅かに穴が開いており、そこから水滴がこちらに向かって落ちてきているようだった。
ぴたん、と。
あなたたちの額を雫が濡らし、それが瞼を伝って瞳に入り込もうとする。
思わず反射的に目を閉じると、ふっと身体が楽になる。
再度瞼を開けば元通りの景色があなたたちを迎え入れ、額に触れてみても濡れた感覚はない。

〈正気度ロール 0/1〉


失敗:
再び何とも言えない焦燥感が精神を煽る。
しかし、相変わらずその正体はわからない。

3回目
成功:
ぴたん。

どこからともなく、またあの音がして、あなたたちの額を濡らした。
うとうとと微睡んでいたところを邪魔された時にも似た苛立ちが胸中に広がり、少し視線を下げる。
すると首が擦れたようにやや痛むが、頭ごと動かすことが出来た。
そして眼前に飛び込んできた光景に思わず身が固くなるだろう。

アマガエルに似た、けれど自身の記憶する両生類の大きさは遥かに超えた、名状しがたい奇妙な生物。
でっぷりと肥え太ったそれは、二又に分かれた舌で口を舐め上げながらこちらを見つめている。
餌を品定めする捕食者のような視線に、どっと心拍数が跳ね上がるのを感じた。

額を伝って落ちてきた雫と混ざって、冷や汗があなたたちの頬を流れていく。

〈正気度ロール 1/1d8〉


発狂した場合:
再び瞬きの後、目の前の光景は霞むように消え、先程までの部屋があなたたちを迎え入れた。
しかし、一度手放してしまった正気を手繰り寄せようにも、思考が言うことを聞かない。
否、正常を保とうとする意識すら、今は失ってしまっているのだろうか。

►ハウスルールに準じて発狂状態継続


発狂しなかった場合:
再び瞬きの後、目の前の光景は霞むように消え、先程までの部屋があなたたちを迎え入れた。
失敗:
じわじわと正気を削り取られる感覚だけがある。
けれどその理由もわからなければ、心当たりすら見当たらない。
ただ説明し難い恐ろしさに蝕まれていく。

►正気度:-1



情報テキスト

以下、情報タブなどで開示する想定のテキスト。
▼ プレート
ご自由に
▼ プレート(裏)
出口はありません
▼ メモ
たもっているものはみえない
そがれたものはみえる
▼ 手帳
時計もないから実際の時間はわからないけど、何日かは経ってるんじゃないか?
ずっと聞こえてくる水滴の音に気が狂いそうだ。
眠気に任せようとしても、この音で目が覚める。
右の扉は外に繋がっていたみたいだし、雨で濡れるのはいやだけど、
このままここに閉じ込められたままよりはマシかもな。
▼ 手帳②
最初に⛆⛆⛆⛆った時に、あんな変なやつなんて⛆⛆か?
⛆ら⛆⛆ゆれ⛆、こ⛆⛆⛆近⛆⛆⛆来⛆。
気味が⛆くて部屋に⛆って来て⛆⛆った⛆
⛆⛆まま雨⛆や⛆のを待つ⛆⛆ないの⛆?
▼ 『滴水刑について』
滴水刑とは、古代中国で行われた拷問のひとつ。
受刑者の身体を固定し、額に一滴ずつ水滴を垂らし続け、
やがて水滴によって人間の頭蓋骨を貫通させるという内容。
しかし頭蓋骨を抉るに至るまで水滴を垂らし続けることは人間の皮膚構造上難しく、
実際には拷問に対する恐怖で精神が崩壊するか、
低体温症によって死に至ることがほぼだったと言う。

一見誇張表現に見えるこの拷問は受刑者の精神を蝕む目的においては非常に効果が高い。
意識を飛ばそうとしても水滴の刺激で強制的に現実に引き戻されてしまう。
加えてその不規則さは推測ができず、いつ垂れてくるかわからないという不明瞭さは
徐々に正常な判断力を摩耗させる。
水滴で頭蓋骨を削るなどという馬鹿げた内容であっても、
疲弊した思考では次第に恐怖が強くなり、正気を削るのだ。
▼ 『明晰夢』
夢とは本来、見ている最中にそれが夢であると認識することはできない。
しかし稀に夢と自覚できることがあり、これは『明晰夢』と呼ばれる。
意図的に明晰夢を見る方法は明らかになっていないが、
睡眠時であれば誰にでも起こりうる生理現象のひとつだ。

夢から醒める夢を見た時、非現実的な現象に見舞われた時など、
たまに自覚しやすい夢を見ることがあるだろう。
こういった時、過度に緊張しすぎず、夢から醒めてしまわないように
意識するというのが明晰夢を見るコツだ。
明晰夢は、自分の思い描いたことをコントロールしやすいものなのだ。

逆に覚醒を促そうとするならば、すぐに目覚めることもできるだろう。
▼ 水溜まりの底の文字
ここは夢の中
▼ PL向け逃走ルール開示
〈DEX6との対抗ロール〉を連続で2回成功する必要がある。
1回成功 :攻撃射程外
2回成功 :完全離脱

逃走はR制で処理し、対抗ロールは1Rに1回のみ振ることができる。(R消費行動として扱う。)
対抗ロールを振った場合、攻撃を行うことはできない。

その他の技能ロール(〈回避〉など)はハウスルールに準じるが、
位置の離れた探索者同士で補助行動を行う場合〈DEX×5〉に成功する必要があり、
これもR消費行動として扱う。

なお、一度対抗ロールに成功していても、その後に連続で2回失敗した場合、攻撃射程内に入る。
ナガアエは攻撃射程内の探索者のみを対象として、1Rに1回攻撃を行う。

逃走は途中で中断して戦闘へ移行しても構わないが、再開する場合は対抗ロールは最初からスタートになる。

ギミック①用情報テキスト

以下、ギミック①の正気度条件を達成した探索者にのみ開示する想定のテキスト。
▼ 手帳②
最初に部屋に入った時に、あんな変な奴なんていたか?
ゆらゆらゆれて、こっちに近づいてきた。
気味が悪くて部屋に戻って来てしまった。
このまま雨がやむのを待つしかないのか?
▼ 手帳③
帰りたい帰りたい帰りたいらくになりたい
おれはあいつにたべられるためにここにきたのか
▼ 右の扉のプレート
お迎えの部屋

KP手引き

テキストセッション想定で描写がやや冗長であるため、必要に応じて削る、改変を加えて欲しい。

KP向け注釈として難易度に関する内容に度々触れている通り、適宜KP裁量で難易度は調整して構わない。
ただしシナリオ進行に必須の情報は、ダイスロールに失敗した場合でも開示することが好ましい。
(ペナルティの追加などは裁量に委ねる。)

メニュー部の『ソロVer.に切り替え』のチェックを入れると本文中の「あなたたち」の描写が「あなた」に置換され、
ソロ探索では不要な描写が省略されるため、必要に応じて活用して欲しい。
なお、縦画面では『ソロVer.に切り替え』が表示されないため、複数人向けの描写で固定となる。

本文内では下記の通り表示分けをしている。

〈ギミック判定〉

〈技能ロール〉

〈正気度ロール〉

行動宣言による開示

► 減少値などの指示





以下、本編。





















本編

導入

ぴたん、ぴたん、

どこかで聞いたことのあるような音で沈んでいた意識が浮上した。
聴覚に届いたその音は少し反響していて、断続的に聞こえてくる。

ぴたん、

やはり聞き覚えがあるはずだが、どこで耳にしたのだったか。
ぼんやりとした思考はまとまらないまま霧散していき、代わりに肌を撫でた空気の感覚を脳に言づけてきた。
湿度が高く、不快感を纏う重苦しさ。
これも、体験したことがあるような気がする。

そもそも、今自分が置かれている状況は、どうなっているのだろう。
そう意識を向けようとして、視界が真っ黒だと気付く。
辺りには微かな明かりすらないのか、何も見えない。

酷く、瞼が重い。
睫毛が何かに、触れている。
自分の下瞼に、触れている?

あちらこちらへ散らかしてしまった意識をかき集めていけば、単純なことだ。
自分が瞼を閉じていたことを認識する。
そこまで至って漸く、あなたたちは目を開くことができるだろう。


視界に飛び込んできたのは、見覚えのない薄暗い部屋。
然程広くもなく、10畳ほどだろうか。
部屋の中央には小さな水溜まりが出来ている。
ふと、

ぴたん、

とまた覚えのある音が鼓膜を揺らす。
知覚したと同時に額にも僅かに濡れた感覚を抱いたが、触れてみても指先が水を吸う感触はなかった。
しかし、そこでやっと、意識は冴え渡り覚醒し始めた。

再び、ぴたん、と。
先程から絶えず響いていたのは天井から一直線に、水溜まりを目掛けて飛び込んだ水滴の音だった。
視線で追って、その正体に納得がいく。
そんな取り留めもないことを思考する程度には、今日は随分と寝起きが悪いようだった。

〈1d100〉


KP向け注釈:
【 ギミック② 】のPOW判定。
KPは成否数をカウントしておく。


暫く天井から水溜まりへの一方通行を眺めていれば、どうやらここには自分以外にも人がいたようだということに気付く。
加えて、この部屋に窓や家具はないらしいこともわかるだろう。
奥に佇む扉が1枚だけの、簡素な作りの部屋だった。

探索可能箇所
自分自身 / 部屋全体 /

自分自身

外傷や体調不良はない。
所持品は一切なくなっているが、そもそもここで目覚める前に自分がどこで何をしていたかが思い出せない。
妙に疲労感があり、頭が重い。

►MP 〈-1d6〉


KP向け注釈:
精神寄生体によるMP吸収。
直接寄生されてはいないため減少値を少なくしているが、探索者のPOWが低すぎる場合は気絶しない程度に調節して欲しい。
なお、減少値が5を超えた場合は追加で〈-1d4〉PTの正気度を喪失する。

部屋全体

薄暗いが、視界はなんとか保てている。
天井が雨漏りしている所為か、全体的に湿っぽい。
未だ絶えず水滴の音は響き続けている。

〈目星〉

成功:
部屋の隅にちかり、と何か光ったものが見えた。
近づいてみれば小さな鍵が落ちている。

〈アイデア〉

成功:
水の音というのはリラックスしやすいリズムだと聞いたことがあるが、それにしては気分が落ち着かない。
見知らぬ場所だという不安感もあるのかもしれない。
しかし、ストレスを緩和するどころか助長しているような気さえする。
KP向け注釈:
今まさに拷問を受けているから。

シンプルな木製の扉だ。
近づいてみれば、小さな鍵穴があり、施錠されているらしいとわかる。
ドアノブにプレートが掛けられている。
▼ プレート
ご自由に

〈目星〉

成功または裏を見る宣言:
▼ プレート(裏)
出口はありません

扉に

〈聞き耳〉

成功:
人の気配はない。
よく耳を澄ませてみると、扉の先からも水滴の音がする。
失敗:
人の気配はない。

扉を開ける(鍵を入手している場合)

部屋の隅に落ちていた鍵は、丁度ドアノブの錠に合うようだった。
差し込み、軽くひねれば、カチリ、と小さく音が鳴る。

扉を開ける(鍵を入手していない場合)

老朽化しているのだろうか、強く捻ってみると扉は軋んだ音を立てる。
湿気で木が痛んでいるのかもしれない。

〈STR*5〉

or

〈戦闘技能〉


成功:
ばきゃり。
鈍い音を立てて扉からドアノブが外れる。
金属製の取っ手の先にはボロボロになった木片が申し訳程度にしがみついており、かんぬきの役割を担っていた金具ごともぎ取られていた。
つっかえを無くした扉は軋みながらゆっくりと開いていく。
失敗:
何度か試してみれば壊せそうだ。
KP向け注釈:
失敗した場合、技能ロールなしに〈1d3+db〉のダメージロールを行い、耐久値【5】を削ることで壊すことが出来るが、
1回のダメージロールにつき、ささくれた木片が手に突き刺さり耐久値が【1】減少する。
ファンブルをしたら逆に轟音を立てて扉が壊れるかもしれないが、その場合は破壊具合に見合った怪我を負う羽目になるだろう。

白い部屋

扉を開くと、真っ白な壁と床に囲まれた簡素な部屋があなたたちを迎え入れる。
清潔感はあるものの、人が暮らしているような気配の薄い部屋だ。
僅かばかりの家具が備えられ、こじんまりと配置されていた。
部屋の左右の壁には扉があり、今入ってきた扉を含めた3つ以外に出入り口や窓はないようだ。

この部屋でも変わらず水滴の音が響き続けているが、天井が雨漏りをしているような様子はない。

探索可能箇所
ローテーブル / / 右の扉 / 左の扉

ローテーブル

部屋の中央に置かれたローテーブル。
綺麗に磨かれた天板がつやりと反射してあなたたちの顔を映した。
上には1枚のメモが折り畳んで置かれている。
▼ メモ
たもっているものはみえない
そがれたものはみえる

〈聞き耳〉

or

〈目星〉


聞き耳成功:
ローテーブルの丁度真下あたりから、ぴたん、ぴたん、と断続的な水音が聞こえてくる。
目星成功またはローテーブルの下を覗く宣言:
ローテーブルの下を覗くと、どういう原理か、机の裏側から少しずつ水が垂れている。
その水が床に置かれた盆に溜まって、ぴたん、ぴたん、と軽やかな音を立てていた。

その光景を眺めていると、不意にまた、額に水が一滴垂らされたような感覚を得る。
額に触れてみても指先は濡れず、見上げてみても何かが滴ってきたような様子はない。

〈1d100〉


KP向け注釈:
【 ギミック② 】のPOW判定。
KPは成否数をカウントしておく。

1m程度の低い棚。
覗き込んでみれば本が整然と詰め込まれている。

〈図書館〉


成功:
1冊だけ背の高さが低い本を見つける。
取り出してみると、どうやら書籍の類ではなく、手帳のようだった。
▼ 手帳
時計もないから実際の時間はわからないけど、何日かは経ってるんじゃないか?
ずっと聞こえてくる水滴の音に気が狂いそうだ。
眠気に任せようとしても、この音で目が覚める。
右の扉は外に繋がっていたみたいだし、雨で濡れるのはいやだけど、
このままここに閉じ込められたままよりはマシかもな。

内容を確認して、これは誰かの手記らしいと分かるだろう。
ページを捲ってみれば続きは水で濡れてしまったたのか、ところどころふやけていたが、多少読み取ることはできる。
▼ 手帳②
最初に⛆⛆⛆⛆った時に、あんな変なやつなんて⛆⛆か?
⛆ら⛆⛆ゆれ⛆、こ⛆⛆⛆近⛆⛆⛆来⛆。
気味が⛆くて部屋に⛆って来て⛆⛆った⛆
⛆⛆まま雨⛆や⛆のを待つ⛆⛆ないの⛆?
ギミック①の正気度条件達成者がいる場合(達成者にのみ開示):
▼ 手帳②
最初に部屋に入った時に、あんな変な奴なんていたか?
ゆらゆらゆれて、こっちに近づいてきた。
気味が悪くて部屋に戻って来てしまった。
このまま雨がやむのを待つしかないのか?
KP向け注釈:
過去の犠牲者の手記。

【 ギミック① 】の正気度条件達成者がいる場合、達成者のみ続きの〈母国語〉判定なく
『帰りたい帰りたい帰りたい』『らくになりたい』、更に書き記された文字の最後
『おれはあいつにたべられるためにここにきたのか』まで読むことができる。
ギミック①の正気度条件達成者がいる場合(達成者にのみ開示):
その後もふやけたページが続くが、段々と持ち主の筆跡は乱れていき単調なものになっていった。
▼ 手帳③
帰りたい帰りたい帰りたいらくになりたい
おれはあいつにたべられるためにここにきたのか
正気度条件未達の探索者は技能に成功しても、手帳②のふやけた文字部分と、
最後の『おれはあいつにたべられるためにここにきたのか』を読むことはできない。
その後もふやけたページが続くが、段々と持ち主の筆跡は乱れていき、読み取れないものが殆どになってしまっていた。

〈精神分析〉

or

〈心理学/2〉


成功:
持ち主の精神状態は相当悪かったのだろう。
特に筆跡が乱れてからが顕著で、文字から推測するだけでもまともな判断が出来る状態とは到底思えない。

〈母国語〉


成功:
後半になるにつれて、『帰りたい帰りたい帰りたい』『らくになりたい』など、単調だが乱れた文字が続いている。
書き記された文字の最後はぐしゃぐしゃになってしまっていて、読むことができない。

右の扉

さらりとした手触りの白くシンプルな扉。
金属製のプレートが打ちつけられているが、何も書かれていない。
ドアノブに鍵穴はなく、鍵もかかっていないようだ。
ギミック①の正気度条件達成者がいる場合(達成者にのみ開示):
▼ 右の扉のプレート
お迎えの部屋
KP向け注釈:
【 ギミック① 】の正気度条件達成者がいる場合、達成者のみプレートの文字が読める。

扉に

〈聞き耳〉

成功:
人の気配は感じないが、さあさあと絶え間ない水音がする。
雨やシャワーなどの音に似ている気がする。
失敗:
特に物音や人の気配もないと感じる。

左の扉

さらりとした手触りの白くシンプルな扉。
金属製のプレートが打ちつけられており、『暇つぶしの部屋』と書かれている。
ドアノブに鍵穴はなく、鍵もかかっていないようだ。

扉に

〈聞き耳〉

成否共通:
特に物音や人の気配はない。

右の部屋

扉を開けると、湿った空気が身体中を包む。
次いで、頬をぱたぱたと無数の水滴で濡らされ、さあさあと絶え間ない音が鼓膜を震わせた。
雨が降っている。

そう気づいて上を見上げるが、どんより雲った空はどこか作り物のように感じられ、僅かに違和感を抱く。
こんな環境に置かれて、疑い深くなっているのだろうか。
首を傾げるも、その正体に思い当たる節はない。

辺りを見渡してみるとここは随分と広い平原のようだった。
雨で視界が悪いことも相俟って、あまり遠くまでは見えない。
これと言って目立つ建造物などもないようで、周囲から隔絶されているような印象を受けた。
KP向け注釈:
ここは夢の中であり外ではない。
どれだけ進んでも果てに辿り着くことは出来ない。
【 ギミック① 】の正気度条件達成者がいる場合、達成者のみ周囲の描写が変わる。

探索可能箇所
出てきた扉 / 周囲

出てきた扉

出てきた扉を振り返るとその左右には真っ白い壁が果てしなく広がっていた。
上部も天高く聳えており、とてもではないが自分の視力では終点が確認できない。
壁を伝って歩いてみても、途方もなく続いているように思える。
景色も殆ど変わらないため、あまり離れすぎては扉の場所まで戻れなくなるかもしれない。

〈アイデア〉


成功:
外壁が全く濡れていない。
雨漏りもしていた屋内の状況を考えると、つい先程から降り始めたというのも考えづらい。
KP向け注釈:
ここが夢の中であり、非現実的だと認識させるための情報。

周囲

水平線が見えないほど広い。
周囲に人がいる気配もなく、ここが何処かもわからない以上闇雲に動き回るのは危険だと感じる。
ギミック①の正気度条件達成者がいる場合(達成者にのみ開示):
じっと目を凝らしていると、遠くの方で何かが揺らいだ。
蜃気楼のようにぼんやりと輪郭の掴めないそれは、少しずつこちらへ近づいてくるような気がした。
本能が警鐘を鳴らし、心拍数が上がる。
とめどなく降り続ける雨に自身の冷や汗が混ざって身体を伝う感覚が不快さを煽る。

〈正気度ロール 1/1d2〉


KP向け注釈:
基本的に想定していないが、ここで正気度が0になった場合目覚めることはできず、中途ロストの扱いとなる。
中途ロストした探索者はこの場で遠方の影(正気度ギミックの条件を満たしていない探索者には見えない)の
正体であるナガアエに絡めとられ、捕食される。

遠くまで移動してみる

どれだけ歩いただろうか。
ふと距離を確認しようと振り返ると、あなたたちのすぐ背面に白い扉があった。
形状と手触りからして、恐らく自分が出てきた扉と同じだと推測もつく。
体感としてかなり離れたつもりだったが、奇妙なことに全く進めていなかった。
ぐったりと心身が疲れた自覚を得る。

〈正気度ロール 0/1〉


左の部屋

扉を開けると、部屋は薄暗い。
天井には僅かな明かりを零す豆電球が吊り下げられ、チカチカと明滅していた。
徐々に慣れてきた視界で周囲を見渡せば、ここは壁一面に本棚が並んだ部屋らしい。
今入ってきた扉以外に出入口らしきものは見当たらない。

探索可能箇所
本棚

本棚

馴染みのない言語で書かれていたり、掠れて背表紙の文字が読み取れない本ばかりだ。

〈図書館〉

成功:
本棚を見ていくと、日本語で書かれた本を2冊見つけることが出来る。
『滴水刑について』と『明晰夢』というタイトルの本だ。
▼ 『滴水刑について』
滴水刑とは、古代中国で行われた拷問のひとつ。
受刑者の身体を固定し、額に一滴ずつ水滴を垂らし続け、
やがて水滴によって人間の頭蓋骨を貫通させるという内容。
しかし頭蓋骨を抉るに至るまで水滴を垂らし続けることは人間の皮膚構造上難しく、
実際には拷問に対する恐怖で精神が崩壊するか、
低体温症によって死に至ることがほぼだったと言う。

一見誇張表現に見えるこの拷問は受刑者の精神を蝕む目的においては非常に効果が高い。
意識を飛ばそうとしても水滴の刺激で強制的に現実に引き戻されてしまう。
加えてその不規則さは推測ができず、いつ垂れてくるかわからないという不明瞭さは
徐々に正常な判断力を摩耗させる。
水滴で頭蓋骨を削るなどという馬鹿げた内容であっても、
疲弊した思考では次第に恐怖が強くなり、正気を削るのだ。
失敗:
かなり時間をかけて本棚を見ていくと、日本語で書かれた本を見つけることが出来る。
しかし、時間を浪費したことにより随分と精神が疲弊したような気がする。

►正気度:-1


成否共通:
▼ 『明晰夢』
夢とは本来、見ている最中にそれが夢であると認識することはできない。
しかし稀に夢と自覚できることがあり、これは『明晰夢』と呼ばれる。
意図的に明晰夢を見る方法は明らかになっていないが、
睡眠時であれば誰にでも起こりうる生理現象のひとつだ。

夢から醒める夢を見た時、非現実的な現象に見舞われた時など、
たまに自覚しやすい夢を見ることがあるだろう。
こういった時、過度に緊張しすぎず、夢から醒めてしまわないように
意識するというのが明晰夢を見るコツだ。
明晰夢は、自分の思い描いたことをコントロールしやすいものなのだ。

逆に覚醒を促そうとするならば、すぐに目覚めることもできるだろう。
KP向け注釈:
進行に必須の情報であるため、必ず開示すること。
ファンブル処理:
本棚にぶつかった拍子に1冊の古めかしい本が足元へ落ちてくる。
装丁が剥がれかけており、随分と状態が悪いようだ。
それを戻そうと手に取ったところで、綴じ糸のほつれたページがひらりと舞う。
無意識的にそちらへ目を遣ってしまったあなたたちは、認識してしまう。

そこには、奇妙な生物が描かれていた。
アマガエルに似ているようにも見えるが、名状しがたい。
人間の腕のような前脚は4本ほど付いており、カマキリを思わせる姿勢で立ち上がっている。
大きく裂けた口は人間など容易く丸呑みにできそうなほどで、本能的な恐怖を抱く。

〈正気度ロール 1/1d2〉


KP向け注釈:
ファンブルによる正気度トラップだが、難易度調整でなくしても構わない。

左右の部屋探索後

それぞれの部屋を粗方調べ終えて戻ってくれば、最初に目覚めた部屋の扉の反対側に、1枚扉が増えていることに気づく。
これだけ家具の少ない部屋で見落としていたということは考えづらいが、白色の扉は壁との継ぎ目が非常に薄く、同化していたのかもしれない。
そう思い込んで、非現実的な状況を常識に当てはめようとしなければ、不安感が助長されてしまいそうだ。

探索可能箇所
正面の扉

正面の扉

凹凸がなく、つるりとした手触りの白い扉。
プレートが掛かっていたり打ちつけられていたりもしておらず、取っ手の類もない。
ほんの僅かにだけへこんでいる箇所があり、少し力を加えてみれば動きそうな気配がする。
押し戸になっているようだ。

扉に

〈聞き耳〉


成功:
人の気配は感じないが、扉の先からも水滴の音がする。
失敗:
特に物音や人の気配もないと感じる。

正面の部屋

扉を開けると、出迎えたのは金属の壁で覆われた殺風景な部屋だった。
空気はしんと冷え、自身の靴音が反響するほどに静かだ。

天井からは水滴がぴたん、ぴたん、と不規則に垂れ、床に小さな水溜まりを作っている。

不意にまた、額に雫が垂れたような感覚がした気がする。

〈1d100〉


KP向け注釈:
【 ギミック② 】のPOW判定。
KPは成否数をカウントしておく。


探索可能箇所
水溜まり

水溜まり

天井から垂れた雫が形作った、小さな水溜まりだ。

〈目星〉


成功または水を払うなどの宣言:
水溜まりの底に文字が滲んでいる。
▼ 水溜まりの底の文字
ここは夢の中

KP向け注釈:
起きようと意識するなどの行動宣言で【 目覚め 】へ。
PLが気付けなかった場合、〈アイデア〉で覚醒を促すなど、適宜調整して欲しい。

目覚め

不意に、視界がぐにゃりと歪む。
直線だったはずの金属の継ぎ目は波打ち、天井が高くなったり低くなったり、跳ねるように間隔を変えていく。
地面が沈んで身体ごと飲み込まれていきそうな不安定さ、酩酊感に次第に気分が悪くなる。

〈1d100〉


KP向け注釈:
目覚めロール。判定値はPOW×nとなる。
nは5からスタートで、水滴のPOWロールで成否数ごとに±1される。

例えば、
成功数2・失敗数1であれば POW×6
成功数0・失敗数3であれば POW×2
となる。

最大値は95とする。

なお、夢の中で負った怪我は起床時に回復しない(眠っていて身じろいだ際に怪我を負った処理)想定だが、
探索者のHPが心許ない場合は難易度調整として回復させても構わない。
KP裁量による。

やがて色彩が混ざり合って輪郭すらおぼつかなくなった景色と共に、意識を投げ出した。
視界は暗転したまま何も捉えず、身体は宙に浮いたように四肢の力が抜けている。

そこでまた、ぴたん、と。
水滴の音が鼓膜を打つ。
額が濡れて、小さな雫が頬の曲線を滑っていく感覚がある。

次第に落ち着きを取り戻したあなたたちは、うっそりと瞼を開く。

まず視界に飛び込んだのは見慣れない木造の天井だ。
身体は固定されているようで上手く動くことができず、首ごと上を向かされている体勢らしい。
よく見てみれば、小さな穴のようなものがあり、そこから水が滴って落ちてきていた。
それはまたあなたたちの額を少しばかり濡らし、肌を伝っていく。

目覚めロールに成功している:
なんとか視線を下げることはできるが、首元が擦れて痛む。
漸く正面に向き直ると、椅子に腰かけてこちらを眺める見知らぬ男性と目が合った。
まさかじっと観察されていたなどとは思いもしなかったあなたたちは、思わず身を固くするだろう。
目覚めロールに失敗している:
まだ思考がぼんやりとしており、首を動かしたり、上手く発話することができない。
KP向け注釈:
目覚めロールに失敗した場合、この後の〈回避〉に【-20】がかかる。
ファンブルしていた場合更にR復帰に1Rかかるとしても構わない。
KP向け注釈:
探索者達は木製の拘束具で首、手足を固定されているため動けない状態だが、
この後やってくるナガアエの落下衝撃により拘束具が破壊され動けるようになる。

男性

「ご機嫌いかがでしょうか?あれ、気分はどうですか、でしたっけ?」

目の前の人物は口を開くと、感情の読み取れない声色で尋ねてくる。
KP向け注釈:
どう回答したとしてもNPCは会話らしい会話はしない。
ノーマルエンドの描写に関わるため「でしたっけ?」が口癖だと意識する。
(意識できる口癖であれば何でも構わない。)

あなたたちがどう答えようとも、それを意に介す様子はなくひとりごとのように話し続けている。

男性

「滴水刑、でしたっけ?折角なら趣向を凝らそうと思いまして、前は上手くいったんですけどねぇ」
「まだまだ元気そうですか?個体によるのかもしれません。時間がかかりそうです」
「でも、どの個体もやっぱり、疲労、でしたっけ?するんでしょう?初めよりも顔色が悪いように見えます」

そう言って男はあなたたちの前に順に立ち、頬を乱雑に掴むと、左右に捻っては顔色を観察し始めた。
「温度も下がっています、あれ、体温、でしたっけ?」と口にして、ひとりで納得するように頷く。

〈アイデア〉


成功:
流暢に話す割に、違和感のあるこの話し方に聞き覚えがあった。
どれだけ前だったかは正確にはわからないが、昨晩か、数日前か、似た癖で話す妙な男に声を掛けられたのを思い出す。
話しかけられた直後、視界が暗転して……その先の記憶がない。
失敗:
この男の話し方に覚えがある気がしたが、どこで聞いたのかは思い出せない。

〈聞き耳〉


成功:
ふと、ぎしり、と建物が軋むような音がした。

ナガアエの襲来

突如、
 めり、
  めきり
と嫌な音が空間いっぱいに響く。

それは頭上から発せられた音で、思わずその方向へと視線を向ければ、天井から細かな木片が降り注いでいた。

続いて、確かな質量を伴って、何かが落ちてくる。
身を震わせるような衝撃と轟音に反射的に目を瞑る。

すると、直ぐ耳元で固い木が割れるような音がした。
それから身体が浮遊……否、自分が落下していると咄嗟に理解した。

〈回避〉


※目覚めロールに失敗していた場合

〈回避-20〉


成功:
あなたたちは咄嗟に受け身を取ることが出来る。
幸い然程高い地点から落下したわけではなかったようで、痛みはない。
失敗:
身構えるのが遅く、受け身を上手く取ることが出来なかった。
落ちたと言っても大した高さではないが、相応の痛みがあなたたちを襲うだろう。

►HP:-1



見上げると、先程まで自分の身体の自由を奪っていたのは木製の拘束具だったらしく、それが〝何か〟の衝撃で破壊されたのだとわかる。
原因へ目を向けることは本能的な恐怖が拒否しようとしたが、それでも視界をこじ開けるようにその何かは入り込んできた。

でっぷりと肥え太ったアマガエルのような巨躯は、でらでらとした透明な粘膜に覆われており、生理的嫌悪感を抱く。
脈動する内臓が透けて見え、消化器と思しき臓器が赤く染め上がっているのがわかるだろう。
前脚は人間の腕にも似ているが、丸太のように太く、4本付いている。
やがて化け物はカマキリのような姿勢で立ち上がり、大きく裂けた口から二又の下をだらりと垂れ下げ、のったりとこちらを振り向いた。
その視線が孕む捕食者が値踏みするような色に、背筋が粟立つのを感じる。

〈正気度ロール 1/1d8〉


KP向け注釈:
【 ギミック② 】で3回成功した探索者がいた場合、慣用ルールを適用する。
正気度ロールから前回の減少値をマイナスする。

例えば、
1回目にナガアエを目撃した際に失敗→3PT喪失であれば
 今回成功 → 減少なし
 失敗   → 〈1d5〉PT減少
となる。

なお、【 本棚でファンブルした 】際の情報で正気度ロールが発生していた場合は
絵画によるもののため、慣用ルールの適用はない。

中途ロスト者(『右の部屋(お迎えの部屋)』で正気度が0になった探索者)が居た場合

ふと、肉が潰れるような本能的に不快感を抱く音が耳に届く。
見れば、天井から襲来したその化け物の大きな口が、咀嚼するような動きで上下していた。
口の端で同じ動きを繰り返しているのは、人間の脚だ。
血に濡れた服の繊維がぼろぼろに解れ、化け物の唾液と混じりながら床に滴っていく。

咄嗟に目を背けようとするが、あなたたちは飲み込まれていく脚に視線を奪われるだろう。
つま先に引っかかった靴の形に、肉にこびりついた布切れの僅かな柄に、見覚えがあったからだ。
それは先刻夢の中で共に行動をし、あの雨の降る部屋で忽然と姿を消した人物が身につけていたものと酷似していた。
今まさに蹂躙されている目の前の犠牲者が、その人だと容易に想像がついてしまう。

〈正気度ロール 1/1d4〉


KP向け注釈:
中途ロスト者との関係性に応じて減少値は上下させて構わない。
ただし、中途ロスト自体は原則想定していないため、
そもそも現在正気度10とかで参加しようとするギャンブラーが居た場合は止めてあげるのもKPの優しさだ。

あなたたちの拘束が解けてしまったことは、男にとって予想外だったようだ。
屋根を破壊して降ってきた化け物も御しきておらず、狭い屋内で暴れ回っている。
先刻まで雨垂れの音と男の話し声だけだった静かな空間は一変し、今や混戦状態だ。
丁度あなたたちの背後には出入口らしき扉もある。
この隙に逃げ出せるかもしれない。

エンド分岐

1.即座に逃走宣言をする
2.ナガアエと戦闘する (途中離脱可能)
 勝利:❖ True End
 敗北:❖ Bad End
 途中離脱:■ 逃走フェイズ
3.その場に留まる、逃走以外の行動宣言をする
(自分の荷物を探す、他の探索者へ治療を行うなど)
 ■ 逃走フェイズ
 成功:❖ Normal End
 失敗:■ 戦闘
KP向け注釈:
ナガアエとの遭遇で発狂した探索者が居た場合、一時的に分岐が制限される。

ソロ、または全員発狂している → 固定で【 戦闘 】へ。
難易度調整として、戦闘や逃走に影響のでない発狂内容に固定する、
攻撃を受けそうになった際に本能的に正気に戻る等の処理を加えて貰っても構わない。

その場に発狂していない探索者がいる → 行動宣言次第。サンプルは以下。
〈精神分析〉を行いたいなどの宣言:
【 待機 】扱いとなる。
1人1回技能ロールの後、【 逃走フェイズ 】へ。
※発狂者が2人、発狂していない探索者が1人の場合はどちらか1名にしか振れないという意味。
手を引く、抱えて逃げたいなどの宣言:
〈STR×5〉or〈補助者のSTRと発狂者のSIZ対抗〉に成功で【 脱出 】へ。
1人1回いずれかをロールし、失敗で【 逃走フェイズ 】へ。
※発狂者が2人、発狂していない探索者が1人の場合はどちらか1名にしか振れないという意味。

誰も発狂していない場合は、任意の分岐を選択できる。
分岐の選択肢をPLに開示するかどうかはKP裁量に委ねる。

脱出

混乱に乗じてあなたたちは逃げ出す。
やや建付けの悪い扉は開けるのに少しばかり苦労したものの、それほどタイムロスにはならなかった。

 ❖ Normal End

戦闘

目の前に異形の化け物が立ちはだかる。
それは相変わらず獲物を品定めする目つきであなたたちを眺めたかと思うと、ぱっくりと大きく口を開けて飛びかかってきた。

KP向け注釈:
戦闘開始。
ナガアエのステータス・技能は以下。

DEX6 / HP23 / DB+2d6 / 装甲2PT / POT10
〈かぎ爪〉 30% 1d6+DB
〈噛みつき〉40% 1d8+毒(POT10)
1R攻撃回数2回(かぎ爪・噛みつき1回ずつ)
回避なし

狭い屋内での戦闘ということで、かぎ爪の成功値を下げているため、難易度は適宜調整して構わない。(最大60%)
更に易しくする場合はNPCを攻撃対象に含んでも構わない。

★POT処理
噛みつきの攻撃を回避できなかった探索者は即座に〈POT10との対抗ロール〉を行う。
成功した場合〈3d10〉Rの間全技能値に【-10%】
失敗した場合〈1d10〉R後に遅効性の毒で死に至る。
失敗の処理の難易度が高いと感じた場合は〈3d10〉Rの間技能値に【-20%】としても構わない。
いずれも〈医学〉〈応急手当〉など適切な技能で解除できるものとして扱う。

その他詳細は【 登場する神話生物 】を参照。

なお、山小屋にありそうなものであれば〈目星〉や〈幸運〉で武器を見つけられて構わない。
バールのようなものもあるかもしれない。

戦闘を離脱して逃走する場合  ■ 逃走フェイズ
戦闘に敗北した場合  ❖ Bad End
戦闘に勝利した場合  下記描写へ続く


▪ 戦闘に勝利した
一際大きな音を立てて、目の前の巨躯は崩れ落ちる。
ぶよぶよと膨れ上がった身体は瞬く間に溶けて黒い粘着物のような形状に変化し、その飛沫にあなたたちが目覚めた際に話しかけてきた男が飲み込まれていった。
男は悲鳴ひとつあげず、相変わらず何の感情も滲まない瞳で臭気と共に溶けていく自身の身体を眺めていたが、やがて完全に絶命するだろう。
脅威が過ぎ去ったとはいえ凄惨な光景を目の当たりにし、心臓がぎゅうと握られるような嫌な心地だった。

〈正気度ロール 0/1d4〉


KP向け注釈:
KPはここでシークレットで〈2d4〉を振る。
出た出目の回数だけこの場に留まって行動宣言が行えるが、超えた場合はナガアエの死体が発する臭気により〈CON×3〉ロールが発生する。
成功した場合はなんともない。失敗したら吐き気がひどくなるだろう。病院で適切な治療を受けよう。

この場で想定している行動宣言に対する処理のサンプルを以下に記載。
それ以外はKP裁量で適宜処理して欲しい。

自分の所持品を探す

〈目星〉

or

〈幸運〉


成功:
破壊され尽くした小屋の隅に、ひとまとめになった自分の荷物を発見できる。
ここで目覚める前まで記憶していた際の所持品と相違なく一致するだろう。
KP向け注釈:
失敗した場合は警察に遺失物として届けられている。(【 ノーマルエンドの描写 】を参考)
ファンブルしたら届いていないかもしれない。

男の身元を特定するような資料を探す

屋内を探してみても、男の身元に繋がるようなものは特に見つからない。

ナガアエの死体(黒い粘着物)に触れる

じゅう、と煙が立ち、触れた肌が爛れ、水ぶくれとなって腫れ始める。
火傷を負った際に感じる痛みに似た、ヒリヒリとした刺激が触覚を蝕んだ。
すぐさま意識を手放すほどではないものの、このまま放置していたら悪化するだろうことは想像に難くない。

►以降、1行動ごとにHP:-1


KP向け注釈:
応急セットなど適切な道具が所持品にあり、かつ見つけている場合は治療できるが、
道具がない状態の技能ロールのみでHP減少を止めることはできない。
道具がない場合、〈医学〉や〈応急手当〉で「病院などの医療機関で適切な処置を受ける必要がある」という情報のみが落ちる。

なお、いずれにしてもこの場で完治はできないため、
〈1d4〉週間皮膚に痕が残り、触れた箇所が顔面であればAPP-2、それ以外であればAPP-1の後遺症となる。
そもそも推奨されない行動ではあるため、良心的にキーパリングするのであれば止めてあげて欲しい。

行動可能回数を上回ってこの場に留まった

化け物の死体が放つ腐臭に、次第に気分が悪くなってくる。

〈CON×3〉


成功:
なんとか耐えきることができるが、これ以上ここに留まることは良くないと思うだろう。
失敗(嘔吐描写がダメな人用):
段々と気持ち悪さに視界が回ってくる。
吐き気も込み上げてくることだろう。
これ以上この場に留まることは危険だと、脳裏で警鐘が鳴る。

►正気度:-1



嘔吐描写が大丈夫な人用の失敗処理
食道にじわりとした刺激がせり上がり、鼻腔に酸っぱい匂いが広がった。
それを知覚した瞬間、あなたたちは耐え切れず吐瀉物を床に撒き散らすだろう。
時間感覚はとうにわからなくなっていたが暫く食事を摂っていなかったらしく、出てくるものと言えば胃液だけだった。
それでも吐き気は止まない。
咳き込み、唇を震わせては胃酸を吐き出し、顎を伝う唾液をぬぐう余裕もないまま、あなたたちはそれを繰り返す。
生理的な涙が滲み、喉の奥がヒリヒリと痛んだ。

►HP:-1


►正気度:-1



この場を離れる  ❖ True End

待機

咄嗟の判断が遅れ、出入り口前に破壊された木片が落ちてくる。
このままでは逃げるとしてもタイムロスになりそうだ。

★戦闘or逃走を選択できる



ナガアエと戦闘する場合  ■ 戦闘
逃走する場合  ■ 逃走フェイズ

逃走フェイズ

小屋ごと飲み込んでしまいそうな巨体から伸びた腕が、薙ぎ払うような勢いであなたたちへ迫る。
命からがら、あなたたちはこの場から逃げ出そうとするだろう。
▼ PL向け逃走ルール開示
〈DEX6との対抗ロール〉を連続で2回成功する必要がある。
1回成功 :攻撃射程外
2回成功 :完全離脱

逃走はR制で処理し、対抗ロールは1Rに1回のみ振ることができる。(R消費行動として扱う。)
対抗ロールを振った場合、攻撃を行うことはできない。

その他の技能ロール(〈回避〉など)はハウスルールに準じるが、
位置の離れた探索者同士で補助行動を行う場合〈DEX×5〉に成功する必要があり、
これもR消費行動として扱う。

なお、一度対抗ロールに成功していても、その後に連続で2回失敗した場合、攻撃射程内に入る。
ナガアエは攻撃射程内の探索者のみを対象として、1Rに1回攻撃を行う。

逃走は途中で中断して戦闘へ移行しても構わないが、再開する場合は対抗ロールは最初からスタートになる。
KP向け注釈:
戦闘分岐に入るまではナガアエの行動は1R1回として扱うこと。

逃走に失敗してナガアエの攻撃射程内に入った場合 / または逃走を中断してナガアエと戦闘する場合  ■ 戦闘
逃走に成功してこの場を離れた場合  ❖ Normal End

エンド

True End

化け物との戦闘で殆ど倒壊しかけた小屋から出れば、小高い丘のような場所だった。
外は小雨が降っているが、ぼんやりと下の方へ街明かりが見えた。
このまま下っていくと、おそらく街に出れるのだろう。

疲弊した体に鞭を打ち、丘を下りきる。
すっかりぼろぼろになったあなたたちの姿に、行き交う人々から怪訝な目を向けられるかもしれないが、大して気にはならなかった。
穏やかな街の喧騒が聞こえてくることに今はただ安堵する。
人ごみに紛れ歩き出せば、日常はあなたたちを歓迎した。


生還
正気度報酬:
  生還        〈1d6〉
  ナガアエを撃破した 〈1d3〉

後遺症
ナガアエの死体に素手で触れた探索者は〈1d4〉週間皮膚に痕が残り、
触れた箇所が顔面であればAPP-2、それ以外であればAPP-1の後遺症を得る。
医療機関で適切な治療を受ける必要があるだろう。

Normal End

出れば、小高い丘のような場所だった。
自分が閉じ込められていたのは古びた小屋だったらしいが、そんなことは今は些事だろう。
まだ怠さの残る手足を必死に振って、背後で轟く破壊音に気を取られないよう、意識をただ前にだけ向ける。
しばらくそうして丘を下って行くと、やがて穏やかな街明かりに迎え入れられた。

男も、化け物も、こちらを追ってきては居ないようだったが、ひとまず身の安全を確保するために交番へ駈け込んだ。
警察官は怪訝な顔をするも、あなたたちを保護してくれる。

家族や同居人と住んでいる、その他捜索願を出すような関係の知人がいる場合

どうやらあなたたちは2日ほど前に捜索願を出されていたらしく、安否が確認されたことで警察官は慌ただしくあちらこちらへと電話をしていた。
念の為にと病院へ送り届けられ、心身に異常がないことが分かれば、無事直ぐに退院できるだろう。

ひとり暮らし、その他捜索願を出すような関係の知人がいない場合

身元を証明する手段はないと途方に暮れていると、あなたたちの荷物は運よく遺失物として届けられていたらしく、手元へと返ってくる。

誘拐事件に巻き込まれただけだったのか、はたまた何らかの作意に絡めとられたのか、今となっては知る由もないことだ。
そのことにほっと胸を撫でおろすか、あるいは釈然としない気持ちを抱えるかはあなたたち次第だが、
いずれにしても、問答無用で平穏な日常へ迎え入れられるのだ。

そうして当たり前の日々に溶け込んで、暫く経った頃。
街並みを橙色に染める夕陽も落ちかけて、夜の気配が深まる時間。
あなたたちは普段通り帰路についていた。
きゃあきゃあとはしゃぐ学生たちがあなたたちの横を駆け抜けていくのを微笑ましく眺めていれば、

「最近、神隠しが流行ってるんだって!」
「でしたっけ?が口癖の人でしょ!それって誘拐事件なんじゃないの?」

すれ違いざまに聞こえてきた噂話に、背筋が冷える思いになるかもしれない。


生還
正気度報酬:
  生還 〈1d6〉

後遺症
ナガアエの死体に素手で触れた探索者は〈1d4〉週間皮膚に痕が残り、
触れた箇所が顔面であればAPP-2、それ以外であればAPP-1の後遺症を得る。
医療機関で適切な治療を受ける必要があるだろう。

Bad End

眼前に大きく開け放たれた深紅の口腔が迫る。
二又に割けた舌は、誘うようにあなたたちを捉える。
それを躱そうとする余力も、抗おうという気力も、もうあなたたちには残されていなかった。
ただ巨大で、冒涜的な異形の蹂躙を受け入れることしかできない。

投げ出された四肢に鮮血が飛び散る。
ぼとり、ぼとりと重たい水音を滴らせながら床を染めていく色が、自身から溢れていると知覚すらできなかった。
とうに痛みはなく、どこか他人事で死の予感を抱いていた。
やがて視界は肉を潰す音と共に閉ざされる。

ぴたん、

嘲笑するかのように軽やかに響く水滴を、聴覚が辛うじて拾ったのを最期に意識は途絶えた。


肉体ロスト
報酬なし

あとがき

誘拐されたぜ!ナガアエの餌にされそうだぜ!逃げるぜ!というだけのクラシックシナリオです。
フォロワーさんにクラシック回すぞ~となり、でも通過してるクラシックわからないから通過済みだったらアレだな~となり、
じゃあ書くか!となり勢いだけで書きました。
なんとなく梅雨の時期にじめっとしたシナリオを出したかったと言うのもあります。

あれこれモニャモニャ書いていますが、自由に回して楽しんでいただけたらと思います。

ご不明点がございましたら@FutonCoC まで。
改めましてこの度は拙作をお手に取って頂きありがとうございました!
どうぞこれからも良きTRPGライフを!


2023.6.17 洋太

参考資料

NET EASE『古代の拷問〝滴水刑〟の原理、人は殺せるのか?精神的懲罰』
https://www.163.com/dy/article/GORA8LEM0552EZ9J.html
日本語のページではありません。さらっと流し読みをして訳しているので間違っている部分があるかもしれません。

Wikipedia『明晰夢』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%8E%E6%99%B0%E5%A4%A2

※上記URLは本シナリオを執筆するにあたって参考にしたものであり、各団体とは一切関係ございません。
 また、情報の正確性を保証するものではないことをご留意の上、シナリオ中の情報はフィクションとしてお楽しみください。






CoC非公式シナリオ『滴る』

本シナリオは、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved.
Arranged by Arclight Inc. Call of Cthulhu isa registered trademark of Chaosium Inc. PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION